使い切り防護服の必要性
綿製作業服との違い
通常使用している綿の作業服と防護服とでは、防護性能にどれほどの違いがあるのでしょうか。粉じんと蒸気状物質(有機溶剤など)とに分けて考えてみます。
まず粉じんに対する防護性能についてみてみましょう。粉じんが作業服に付着しにくいかどうかは、生地の表面の平滑性で決まります。拡大画像をみるとわかるように、綿の作業服は織物の表面の凸凹が際立っており、粉じんが付着しやすく、離脱しにくくなっています。これに対して、不職布製防護服は表面がフラット(表面平滑度が高い、図1参照)なため、粉じんが表面に付着しても簡単に脱落します。さらに普通の綿の織物では縦糸、横糸が交差していることから50マイクロメートル以上の間隔の隙間ができてしまい、細かい粒子の粉じんがこの織物の隙間から内部に侵入したり、この隙間の中に残留しやすくなっています。
防護服の優れた粉じん捕集率
これに対し防護服は、ランダムに絡み合った0.5マイクロメートルから10マイクロメートルの極細繊維によりシートが形成されているため、細かい粉じんが侵入しにくいことがわかります。メーカーが行った防護服の粉じん捕集実験では、0.3マイクロメートルの粒径に対して99パーセント以上の捕集率、すなわちバリアー性を示すものもありました。
図1 防護服の表面形状
通達「ごみ焼却施設におけるダイオキシン類の対策について」(平成十年七月二一日基安発第一八号)では、ダイオキシン類の吸着した粉じん等で汚染された作業服等は、二次発じんの原因となることから、当該作業服等はそれ以外の衣類等から隔離して保管させ、かつ、当該事業場からの持出しは行わせてはならないことが示されています。すなわち、有害性の高い粒子状物質の二次発じんを防止するためには、使い捨ての防護服の装着が重要なのです。
有機溶剤蒸気に対する防護性
一方、蒸気状物質に対する防護性能では、どれほどの違いがあるでしょうか。有機溶剤が通常の綿の作業服からどのくらい透過するかを調べるため、作業服の外側と下着の各部位8ヶ所に直径6センチメートルの活性炭のフェルトを取り付けて作業を行ってもらいました(写真1)。そして、各部位(内側/外側)に付着した有機溶剤量の割合を求めました。
綿の作業服では、夏では50~60パーセントの透過率を示しました。冬の作業服は厚手であるため透過率が低くなりましたが、それでも40パーセント近い値を示しました(図2)。五名の作業者を対象に混紡の作業服と化学防護服(タイケム®F)での同様の透過率測定を行った結果、混紡の透過率が50パーセント前後であったのに対し、化学防護服は5パーセントと10分の1に減少しました(図3)。
綿、混紡の作業服では、高い濃度の有機溶剤蒸気が皮膚まで到達しているのに対し、化学防護服は十分に防護できることを示唆する結果でした。
一般作業服からの有機溶剤蒸気はどのくらい透過する?
作業服の外側と内側に活性炭フェルトを装着
写真1 一般作業服における有機溶剤蒸気の透過率
図2 一般作業服における有機溶剤蒸気の透過率
図3 通常作業服、化学防護服による有機溶剤の透過率
執筆:
十文字学園女子大学大学院
人間生活学研究科 食物栄養学専攻
衛生学公衆衛生学研究室
教授 保健学博士 田中 茂
(専門は労働衛生学、作業環境学。「知っておきたい保護具のはなし」など中央労働災害防止協会での著書、執筆多数)