みかん産地レポート:JAふくおか八女
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『価格と品質の うれしいバランス』

Q:標題通り、確かに「この値段で、この味なら、買おうかな」とは思いますが、そこを目指しているということでしょうか?
A:そうです。「喜ばれる品質のみかんを、お手頃な値段で、安定供給する」を目指してます。殊更に高品質のみを目指すことはしていません
Q:具体的には、品質・価格・安定供給を、どうやって実現してるのでしょう?
●品質向上の為に
A:基本は、それぞれのみかん畑に適した品種の選定で、それぞれに異なる地質や標高などに合わせ、最適な品種を植えています。例えば、標高が高いみかん畑には、生育がゆっくりで、酸比率が高い(≒貯蔵性が良い)品種を植えています。これにより、全国的には品質が低下しがちな3月でも、JAふくおか八女は品質に自信を持ってみかんを安定供給することが出来ています。

Q:タイベック®は、お役に立ってますでしょうか?
A :勿論です。収穫前の一定期間、みかん畑をシートで覆い、みかんへの水分供給を絞ることで、糖度を上げることが出来ます。畑の条件に応じてシートを使い分けていますが、タイベック®は防水しながらも湿気が抜けやすく、畑の余分な水分の蒸散を妨げません。また、軽いので、作業性の向上にも寄与しています。
もっとも「シートさえ敷けば」というものではありません。気象状況に合わせて被覆時期を調整したり、定期的な糖度/酸度の確認等が必要なのは、言うまでもありません。

Q:新型選別機(光センサー内臓)も導入されましたよね?
A:はい。お蔭で、より正確/厳密な選別が可能となりました。つまり、「同じ箱に入っているみかんなのに、味が違う」などということは、ほぼ無くなりました。この厳密な品質管理により、早味かん・華たちばな・蔵出しの3ブランドで、皆様にお届けしています。
●コスト低減 / 安定出荷 の為に
A:最大の施策は、みかん畑の大規模整備です。例えば、以下は山下地区での例です。

このような基盤整備により、大規模化&機械化が可能となり、生産性が飛躍的に向上しました。排水計画も織り込みましたので、品質の向上にも寄与しています。ご参考までに、こちらは小倉谷地区のドローン映像です。よろしければ!
また、「様々な標高/地質のみかん畑がある≒様々な品種を育てられる」という生産地の特性を活かし、出荷時期を9月~3月に分散させてます。これは長期間にわたりみかんをお届けできるというだけでなく、労働の平準化・機械/設備のボトルネック回避を可能にしています。
●努力の象徴品種、福岡が誇る 早味かん!

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Q:早味かんについて、教えて頂けますか?
A:従来、9月に収穫できる品種は「早く食べられるのは嬉しいが、味がイマイチ」という評価でした。糖度で言うと8程度です。あまりの評価の低さに、国も減反を推奨した程です。そこで、「9月に収穫でき、かつ、高品質のみかんを」と福岡県が開発したのが『早味かん』です。
Q:品種改良って、思ったからって出来るものですか?
A:10年掛かりました。
●創ってきたから、観て魅てん!
Q:以前、「“結果が全て” ではなく “結果は全て”」と仰いました。その言葉の意味をご解説頂けますか?
A:結果が重要なのは間違いありません。ただ、私達は「価格と品質の うれしいバランス」の為に、様々な努力と試みを、ずっと続けます。その努力と試みが全て反映されるものとして、結果があります。が、逆に言えば、今の結果は、その時点での結果に過ぎないのです。言わば暫定結果です。決して最後の決定的な結果では無いのです。だから、“結果が全て” ではなく “結果は全て”と言い続けています。

Q:つまり、“「ずっと努力&試みを続ける」という意思と、「努力と試みに関わらず、結果は受け入れる」という姿勢”ということでしょうか?
A:こそばゆかばってん、まぁ、そげな感じです。ちゅうか、このビデオ、観て貰えんですか? 映っちょうとは、実際の生産者の方々です。生産者の思いとまでは言いよらんばってん、空気なりとも感じて貰えれば嬉しかです。
『ほにょらんなもうかる』最前線の農家さんに、より現場に近い話をお聞きしました。

Q:「ほにょらんなもうかる」って、どういう意味でしょう?
A:「骨を折らずに、儲かる」と言う意味です。産業として継続する為には利益を出す事が必要ですが、出来るだけ「ラク」することも大切と思っています。労働力は限られてますから、年間管理の中で最も重要な作業を見つけて、集中して手間を掛ける。そうすることで総体的な手間を削減出来ます。まぁ、いかに「ラク」して毎年85点を取るかですね。今年(令和6年産)は全国的、特に九州は不作でしたが、ウチは品質も量も、まあ良かったですよ!!
●総体手間を削減する為に
Q:どこに手間を掛ければ、総体的な手間が削減できるのでしょう?
A:隔年結果って御存知ですか? 豊作→不作→豊作→不作を年ごとに繰り返すみかんの生理現象です。このサイクルが大きくなると、品質と収穫量は、年ごとに120点→30点→120点→30点と安定しません。例えるなら、マラソンで「全力疾走 → 疲れて休む」を繰り返すようなものです。この隔年結果をなだらかにする事がポイントです。
Q:そんなこと、出来るのですか?
A:簡単に出来ます。豊作の年に、なり過ぎた果実を落としてならせ過ぎないようにするのです。
先ずは毎年秋の収穫前に「来年、この樹は実が沢山着くかなぁ? それとも、少ないかなぁ?」の確認予測/判断をします。次に、翌年春の開花前に「今年はどうだろう?この樹の花の量だと、実の量は?」を確認
予測/判断します(花が多ければ、実は多く着く。少なければ、実も少ない)。これらの確認
予測/判断に基づき、6月までになり過ぎが予測される樹には、果実を減らす為の作業を効率的に行う様にしています。
Q:なんか、勿体ない気がしますが…。樹に付いた実を全て収穫している訳ではないのですね。
A:はい、そうです。全ての果実を秋まで育ててたら、次の年は実が着きません!! 実が少ない樹(年)は頑張って手入れしても、せいぜい40点にしかなりません。実が多い樹(年)に、「いかに腹八分にコントロールするか?」が、毎年の品質と量を確保するポイントです。具体的な作業について、別紙にまとめました。ご参考まで。
Q:別紙、拝見しました。段階ごとの状況把握にポイントがありそうですね。これは結構、新しい考え方なのでしょうか?
●状況把握
判断
行動
A:そうかも知れません。平成の後半ごろ、 慶応義塾大学SFC研究所/NECソリューションイノベータさんと連携して篤農家(いわゆる名人)の技術を継承する為の研究をしました。いろいろな発見がありましたが、篤農家と呼ばれる方は「状況把握判断
行動」のサイクルを回していました。もっとも、篤農家ご本人にとっては当たり前のことで、他人には説明しにくい様です。
Q:「名人が教え上手とは限らない」って、ヤツですね
A:そうかも知れません。そこで、みかんのなりかたについて「状況把握判断
行動」のデータを毎年集めました。このデータに基づき、樹毎にポイントを絞ってなり過ぎを調整してきた結果、年間の手間が減り、果実品質と収穫量も安定してきました。
Q:あとでご紹介頂く収穫結果データ、御覧になった農家様、皆、驚きますものね。ところで、データで基準が示されてはいても、状況把握には経験と選別眼が必要な気がするのですが?
A:そうですね、みかんは1年に1回しかなりませんので学ぶチャンスも限られます。まぁ、素人さんでも良い指導者につけば3年程で分かる様になります。ちなみに、JAふくおか八女の指導員さんは優秀ですよ。私は指導員さんが講習している事をやっているだけです。さておき、「状況把握・判断」は人が見る以上、バラつきは出るし時間もかかります。だから将来的には、AIやドローンを活用したいと思います。それで、もっと「ラク」が出来れば、みかん産業はもっと楽しく、もっと良くなると思います。
Q:確かに、それが出来れば、更に「ほにょらんなもうかる」となるでしょうし、消費者からすると「価格と品質」が、より「うれしいバランス」になりますね。
●高耐候バージョンの感想/評価
Q:椿原さんには、平成30年からタイベック®の新製品・高耐候バージョンを試験検証して頂いてます。所感を頂けますか?
A:今年(令和6年)で7年目になりますが、まだまだ使えますね。メーカーさんは、リピート・オーダーが来ないので嫌でしょうけど(笑)
作業する時にシートの上に乗りますが、そんな時でもしっかりしてるし、今年(7年目)初めて1ケ所破れました。12月~6月はみかんの木の根元に丸めて屋外保管していますが、とにかく雑に扱えるので「ラク」ですね。

Q:いや、やっぱり丁寧に扱って貰った方が、より長持ちはすると思うのですが…。
反射はいかがでしょうか? 『長く使った分、汚れて反射が落ちる』という心配もあるかと。
A:今年(7年目)の夏も、土壌が乾燥し過ぎたので、適度な雨を入れる為にシートの開閉作業をしました。そこそこ汚れてれてますが、まだまだ まぶしかったですね。
また、タイベック®ならではの乱反射は太陽がどこにあっても、光が来るんですよね。全体の様子は、ドローン映像、観てみて下さい。
あと濡れている時も従来品と比べて滑らんですね。
Q:他の視察者の方々も、仰ってましたね。私は鈍いからか、あまり違いが判りませんでしたが…。
エンボスが深めなので、分かる方には分かるのかもしれません
A:注意点としては、従来品に比べ乾くのに1.5倍程の時間がかかるので被覆時期や土壌の湿り具合に注意します。その辺も含め、従来品(3年間) vs 高耐候バージョン(7年間)の比較データをまとめてありますので、ご参照下さい。
Q:ありがとうございます。総評として、いかがでしょうか?
A:やっぱり、長持ちする分、敷き替えの手間が削減できるのが最大のメリットでしょうね。3-4年ごとに敷き替えるのが大変です。その回数が削減できるとかなり「ラク」になります。
広いみかん畑の農家さんは毎年、結構な面積を敷き替えておられますので、それが減ればかなり「ラク」になると思います。
Q:重さについては、いかがでしょう?従来品の約2倍ですが…
A:従来品に慣れてると、少々重いですね。
Q:結論として、骨折り削減に貢献できてますでしょうか?
A:うん、よか! 興味のある方は、八女まで見に来られてもよかですよ!
文中および関連資料の数値は実測値または参考値であり、保証値ではありません。また、効果等に関する表現は個人の感想です。
早味かんは 福岡県、華たちばな はJAふくおか八女の商標です。
タイベック®は、米国デュポン社の関連会社の商標又は登録商標です。